教授からのご挨拶
本邦の急速な超高齢社会への進展に伴って歯科領域の疾病構造が変化しており、「高齢者型」と呼ばれる歯科治療の重要性が増しています。このような背景から、2016年11月に従前の全身管理歯科学講座を発展させる形で高齢者歯科学・全身管理歯科学分野が新設され、11月1日付けで同分野教授を拝命いたしました。約800万人と言われる団塊の世代が後期高齢者となる2025年には、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上という、人類が経験したことのない「超・超高齢社会」を迎えます。いわゆる「2025年問題」です。介護や福祉分野の需要はますます増え、医療費などの社会保障費が急膨張するなか、医療・介護の抜本的な見直しが必要とされています。
そこで、今、国が大きな政策転換として進めているのが「病院完結型」医療から、自宅や地域で治す「地域完結型」医療への転換です。高齢化に伴って複数の慢性疾患をかかえる人が増えると、必要とされる医療のありかたも大きく変化します。病気を治して社会復帰させる医療から、病気と共存しながら、暮らしやQOLを保つことを目指した医療への変換です。言いかえれば「治す医療」よりも、「治し・支える医療」のニーズが高まってきます。そのために、医療と介護の連携が急務の課題となっています。この状況で歯科は、包括的口腔保健医療福祉を実現し、健康寿命の延伸に貢献することが求められています。このような社会の要請に対応できる歯科医師の育成が必要です。そのためには、有病者の全身管理をしながら、義歯をはじめとした補綴処置、保存処置、抜歯などの口腔外科処置、口腔ケアなど包括的な診療ができ、多職種と連携できるような人材の育成が必要です。当教室では、研修医や医局員に包括的な歯科診療を研修するシステムを整備し、また、さまざまな場所での口腔ケアや摂食・嚥下リハビリを通じて他科や関連する多職種とのコミュニケーション能力を身につけてもらっています。
研究面では、従来より口腔の健康と全身の健康に関する研究や多職種と連携した口腔管理システムに関する研究を行っています。今後はさらに、学内外の関連部門との緊密な連携により、独創的な基礎研究・臨床研究を展開し、世界に向けて情報発信してきたいと考えています。